2011/12/27

BORN TO RUN 走るために生まれた / クリス・マクドゥーガル


BORN TO RUN 走るために生まれた」を読みました。

副題を直訳すると「隠された部族とスーパーアスリート。世界がいまだかつて見たことのない最高のレース」。副題がそのまんま、物語の要約になっています。

アメリカのランナーの間でブームとなり、昨年日本にも上陸した「フォアフットランニング」とビブラムファイブフィンガーズの火付け役の一冊です。ランナー向け本。

私のランナーの道の師匠からお借りして読みました。

カテゴリとしては「ノンフィクション小説」になるでしょうか。著者のクリス・マクドゥーガルは慢性的な足の痛みに悩んでいたランナーなのですが、彼が「なぜ私の足は痛むのか?」という多くのランナーが抱える素朴な疑問に真剣に取り組みはじめたところからすべては始まります。

「人間にとって、ランニングは不自然で身体に悪いスポーツ」。「ランナーの8割方は故障を経験する。故障はランニングに欠かせないものだ」。そんな、ランナーたちがこれまで受け止めてきた「定説」に対して、著者は「本当にそうなのだろうか?」と問いかけます。「毎年のように、最先端の技術を謳う新しいシューズが登場しているのに、過去30年もの間、なぜランナーの故障はいっこうに減らないのだろう?」。

私もこの問いにはハッとしました。ちょうど私は人生初の足の故障を経験していたときにこの本を読んだため、まさに著者と同じ気持ちで「足が痛む原因は何だろう?」「どうしたらいいんだろう?」と答えを探し求める思いで読みました。

疑問への答えを探し求める中で、著者はさまざまな人たちに出会います。
  • 野望を抱えながら仙人のように暮らす謎のランナー
  • 裸足同然の靴で信じがたいほどの長距離を走るランナー種族「タラウマラ族」(ララムリ族)
  • 人類の起源にまでさかのぼり、「走ること」の本質へと迫るスポーツ研究者
  • サーフィンや詩と同じようにランニングをこよなく愛する大学生
  • 世界最強のトレイルランナー

彼らと出会いながら著者マクドゥーガルは走ることの「真相」へと迫っていき、同時に、「最高のレース開催」を実現していきます。

・・・「走ること」と人類の起源にまつわる最新の科学(仮説)、魅力あふれる個性的なランナーたちの人生の物語、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」「アバター」を彷彿とさせる異文化との交流、と、ひとつの物語の中に複数の要素がちりばめられています。ぶあつくて読み応えはありますが、いろんな楽しみ方ができる「おいしい」一冊です。

ピックアップ
この本の中で特にぐっと来たセリフを3点だけ挙げてみます。

もし本気でララムリ(族)を理解したいなら、95歳の男が山を越えて40キロの道のりを歩いてきた場に居合わせたらよかったんだ。どうしてその老人はそんなことができたかわかるか? 誰からもできないとは言われなかったからだ。老人ホームで死んだほうがいいと言う者はいなかった。人は自分の期待に沿って生きるんだ。
カバーヨ・ブランコ

楽に、軽く、スムーズに、速く、と考えるんだ。まずは“楽に”から。それだけ身につければ、まあ何とかなる。つぎに、“軽く”に取り組む。軽々と走れるように、丘の高さとか、目的地の遠さとかは気にしないことだ。それをしばらく練習して、練習していることを忘れるくらいになったら、今度は“スムーーーズ”だ。最後の項目については心配しなくていい――その3つがそろえば、きっと速くなる。
カバーヨ・ブランコ

これは嘘っぽくて誰にも話したことがないんだけど、ウルトラを走りはじめたのはもっといい人間になるためなの。100マイルを走れたら、禅の境地に達するんじゃないかと思ってた。ものすごいブッダになって、世界に平和と笑顔をもたらすの。わたしの場合はうまくいってない――相変わらずの役立たずだから――けど、自分がなりたい人間に、もっといい、もっと平和な人間になれるって望みはいつもある
ジェン

登場人物のほとんどが、現在も活躍を続ける実在のランナーたちです。

私もこの本のランナーたちのようになりたいし、こんなランナーたちと出会うために、これからも走り続けていきたいなと思いました。


こんな方におすすめ
こんな方におすすめです。
  • ランニング好き、もしくはランニングに興味がある方
  • 「ダンス・ウィズ・ウルブズ」や「アバター」のタイプの物語が好きな方

「ランニングをもっと楽しみたい」という方や、ランニングを習慣にはしているけど、「ランニングは健康のために仕方なくしていることであって、楽しさなんかまったく感じられない」といった方に特におすすめです。そういう方がこの本を読めば、きっと走ることに対する考え方がガラリと変わる!かと思います。

私の場合は、最新のシューズとウェア、iPodとGPS。これらを使った21世紀型のランニングスタイルがいま最も楽しいランニングのあり方だとずっと思っていましたが、この本を読んでからは、最小限のものだけを持って、サーフィンや座禅、瞑想のときのようなリラックスしたスタイルで走るランニングもありだなと思うようになりました。

逆に、次のような方にはあまり向かないかもしれません。
  • 「ランニングなんてもってのほか」
  • 「ランニングをするぐらいなら他のトレーニングをする」
  • 「ランニングに関してはすでにあらゆることを知っている」

私はこの本を読む前から走ることにはハマっていましたが、この本でさらに走ることが楽しくなりました。私がこれから一生ランニングを続けるようなことがあれば、それはこの本のおかげだと思います。

私が2011年に出会った本の中でも、「最高の一冊」のひとつです。

おまけ
著者のページはこちら。
Christopher McDougall | Born to Run | National Bestseller

こちらは著者のTEDでのスピーチ。

2011/12/13

Head Firstデータ解析 頭とからだで覚えるデータ解析の基本 / Michael Milton


Head Firstデータ解析」を読みました。

内容はもうタイトルそのまんま。いわゆる「データ解析」「データ分析」の本です。

「データ解析」と一言で言ってもそのベースとなる理論はたくさんあるので、それをイチからひとつずつ押さえていくというのはなかなか大変です。この本ではそこのところをギュッとまとめて、データ解析の基本的な考え方から、統計、確率、可視化。そして、線形計画法やヒューリスティック、スプレッドシート上での具体的なデータクリーニングの方法までデータ解析の実務をスムーズに行う上で必要な知識をいいとこ取りでササッと学ばせてくれます

ちなみに、「Head First」というのはシリーズ名。ほかにも「Head First PHP&MySQL」「Head First C#」「Head First Ajax」「Head First HTML5」などなど、プログラミング言語を中心にシリーズ本がたくさん出ています。

シリーズ最大の特徴は「わかりやすさ」。「専門書は堅苦しく、わかりづらいもの」というこれまでの常識を打ち破る、画期的なデザインの本です(分野は異なりますが、この本この本なんかにも似ています)。手法としては、たとえば、目を引く人物の写真や手書き風の吹き出し、話し言葉による話しかけてくるような文章などなど。これらをふんだんに使いながら、それでいて、難しい用語や数式は最小限に抑えて、「集中力をそがれずに楽しく最後まで読めること」に最大限の注意が払われた内容となっています。

私はデータ解析については本書を読む前からある程度の知識と実務経験があるので、今回は、知識の穴を埋めること。そして、わかりやすいと噂に聞いていたHead Firstシリーズが本当にわかりやすいかを確認し、わかりやすく伝えるコツを学ぶことを目的に読みました。

読後の印象として、実際、本当にわかりやすかったです。少しクセはあるので好き嫌いが別れるかもですが、データ分析に強くなりたいマーケター、骨太な解析ができるようになりたいウェブ担当者、データ活用にいまひとつ自信が持てない経営者の方などが読むと、楽しく読めるのかなと思いました(実際に実データを使って解析してみたくなるはず!)。

以下、まとめにいきますが、今回は、あえて本の内容には直接は触れず、Head Firstシリーズに共通の「わかりやすさを高めるための工夫」に焦点をあててみました。

早速、以下から、この本から学んだ「わかりやすさのコツ」を挙げてみます。まずは、「伝える側」にできること6つ。

わかりやすさを高めるために「伝える側」にできること

#1 ビジュアルを使う
・文章だけの説明より、絵や写真を使った説明をする
・モノよりも人物の写真を使う

#2 反復する
・同じことを繰り返し説明する

#3 単体ではなくネットワークで覚えさせる
・同じことをさまざまな表現や素材を使って表現する
・左脳と右脳の両方を使わせる

#4 感情に訴える
・ストーリーで語る
・概念と絵や写真を予想外の方法で使う
・感情豊かに読めるような表現を入れる
・絵や写真に人物を入れる(目線も読者向きで)

#5 主体性を引き出す
・話しかけるような文体を使う
・練習問題を入れる

#6 余計な負担を軽減する
・難しい専門用語などで脳細胞を余計に使わせない

伝える側にできることは以上です。これだけでもおなかいっぱいなぐらい抱負にありますが、もう一方の「学ぶ側」にできることのヒントもたくさん載っています。

わかりやすさを高めるために「学ぶ側」にできること

#1 じっくり読んで脳に深く考えさせる
内容を「知る」「理解する」だけであれば、流し読みでも速読でも大丈夫ですが、その知識を実務で主体的に使えるようにするためには「じっくり」「考える」ことが必要です。

#2 実際に問題を解く
よく言われる表現ですが、陸の上で泳ぎ方をどれだけ学んでも、実際に水に浸かって泳いでみないと泳げるようにはなりません。ケースでもいいので、実際に問題を解いてみることが大事です。

#4 本書を読んだ後寝るまで他の本を読まない
これは目からウロコでした。筋肉がトレーニングの後の超回復によって育つのと同じように、脳にも、本を読んだ後の休息が必要なのかもしれません。寝る直前の気持ちや考えていたことが大事、という話も聞くので、これは実は大事なポイントかも。

#5 声に出して読む
これは昔から言われることですが、大人になるとなかなかやりません。いつもいつもやる必要はありませんが、学習がうまく進まないときには声に出してみるのもひとつですね。

#6 勉強するときのコンディションを整える
生理的、情緒的にストレスの少ない環境で、フローに入れるような環境で勉強することが大切です。水分をたっぷりと摂って脳が活性化する、というのもひとつです。

#7 脳に耳を傾ける
脳が喜んでいるのか、負担を感じているのか。その状態によってわかりやすさは大きく変わってきます。ムリな詰め込みやオーバーワークは禁物です。

#8 豊かな感情を持つ
紙面をただ目で追うだけでなく、面白がったり、驚いたり、笑ったり、突っ込んだりしながら読むことで、脳はより活性化します。

・・・以上です。

伝える側、学ぶ側のどちらに立つにせよ、「わかりやすさ」を高めるために大切なのは、人間の特性――視覚、脳、感情、記憶、学習、集中力、休息に関係するもの――をできるだけ考慮して、それに沿ったスタイルやパーツを使う使うことのようです。実際、作り手の狙いどおりにわかりやすくなっていて驚きました。


一言感想

今回は本書のコンテンツ(「データ解析」)ではなく、スタイル(わかりやすさを高めるためのコツ)に焦点をあてましたが、本書は、データ解析について学ぶのにも、スタイルを学ぶのにも使えるイイ感じの一冊でした。

結構クセはありますが、そこが気にならなければとてもおすすめな本です(ダメな人もいるかと思うので、まずはAmazonのなか見検索などでパラパラっと読んでみるのをおすすめします)。

最後に、目次とキーワードを少し載せておきます。


目次
序章
1章 データ解析入門:分析する
2章 実験:持論を検証する
3章 最適化:最大にする
4章 データの可視化:図を使うと賢くなる
5章 仮説検定:否定する
6章 ベイズ統計:基準を活用する
7章 主観確率:数値で表した信念
8章 経験則:人間らしい解析
9章 ヒストグラム:数値の形状
10章 回帰:予測
11章 誤差:誤差を適切に示す
12章 リレーショナルデータベース:関連付けられますか?
13章 データクリーニング:秩序を与える
付録1 未収録事項:上位10個のトピック
付録2 Rのインストール:Rを起動する!
付録3 Excel分析ツールのインストール:分析ツール

キーワード(自分用メモ)
  • メンタルモデル
  • データ解析の基本ステップ:定義→分解→評価→判断
  • 比較対照
  • 基準となる仮定
  • 不確定要素の特定
  • 交絡因子(confounder)
  • 探索的データ解析(exploratory data analysis:EDA)
  • 回帰分析(regression analysis)
  • 診断性
  • ヒューリスティック

おまけ
英語ですが、Head Firstシリーズの公式ページにはコンセプトも載っています。
About - Head First Labs

2011/12/04

レコーディング・ダイエット 決定版 / 岡田斗司夫


レコーディング・ダイエット決定版」を読みました。

この本のテーマはずばり「レコーディング・ダイエット」! レコーディング・ダイエットとはこの本の著者・岡田斗司夫さんが提唱したダイエット手法で、おととしぐらいに大ブームを巻き起こしました。

この「決定版」は、そのブームがひと段落したころ、レコーディング・ダイエットを実践した著者自身の経過やよくある疑問に対する回答を織り交ぜ、レコーディング・ダイエットを改めて総括することを試みた一冊です。

私は、当時ブームの存在は知っていましたが、「また新たなダイエット手法が出てきたなぁ・・・」ぐらいの認識でスルーしてしまっていました。

が、これ、今読むと、実はものすごい本(手法)でした! というのは、まず、考え方が行動分析学(行動心理学)の理論と絶妙に合致している点。そして、にもかかわらず、理屈っぽくなく平易なことばでわかりやすく書かれている点。ダイエット本として読むのもありですが、私はむしろ行動分析学の応用事例本として読んだ方が楽しめました。

この世には
  • しっかりした理論に裏付けられたアドバイス。ただ、理屈としてはわかるけど、実質、実行できないもの。
  • わかりやすいアドバイス。わかりやすいけど、裏づけが怪しかったり大事な視点が欠如したりしていて、実行しても結局成功しないもの。
この2つのアドバイスはあふれるほどありますが、良いトコ取りをした「理論がしっかりしていて、かつ、わかりやすいもの」というのはごくマレです。そこをしっかり押さえられているのが本書です。

以下、エッセンスをまとめてみます。詳細は本書を読んでいただくとして、ここでは、レコーディング・ダイエットの定義特徴価値という大まかなところ3点を。


#1 レコーディング・ダイエットとは

レコーディングダイエットとは、「レコーディング」とその精度を高めるための「カロリー計算」、この2つを中心とした体系的なダイエットアプローチです。

レコーディングとはそのまま「記録」という意味で、そのときどき体重や食べたもの、摂取カロリーを時系列に記録していくことです。
レコーディング・ダイエットはこういう思考法の集合体だ。けっして「食事記録」や「カロリー制限」が本質ではない。
便宜上「レコーディング・ダイエット」という名前で呼ばれていますが、記録することそのものはこの思考法のほんの一部にすぎません。


#2 数あるダイエット手法のなかでのレコーディング・ダイエットの特徴

では、レコーディング・ダイエットの特徴とは何でしょうか。私なりのポイントは次の3点です。
  1. 感情と本能を重視
  2. プロセス思考
  3. 算数と栄養学

1. 感情と本能を重視
レコーディング・ダイエットでは、いかにラクに、いかにムリなく「ダイエットを続けられるようになるか」というところに最大の焦点をあてています。

要は「意志の力オンリーではなく知恵を使い、無意識も味方につけてダイエットを続けよう。ただし科学の知識も使って」と。その手段のひとつとして「記録」があるのであって、記録がすべてではありません。記録以外にも、ラクに続ける、自分の感情の部分を喜ばせるための工夫がだくさん詰まっています。

問題は「どうやって痩せるか」という方法じゃない。
どうすればダイエットをやめずに続けられるか」という、モチベーション維持が最大のポイントなのだ。
ダイエットとは辛くて我慢が必要な苦行ではない。レコーディング・ダイエットは「面白くてやりがいがあり、もっともお得な自己投資」なのだ。
誰もが間違えるのは、「ダイエットは意志力の問題」だと考えることだ。(中略)
ダイエットは、意志ではなく、知恵で乗り切るのだ
メモをするというのも、自分の無意識にむかって、手紙を書いているようなものだ
「痩せる」というゲームをしてる
要は、「ダイエットって、ほとんどの人が失敗するのは、続けても成功しないんじゃなくて、そもそも続けることができてないからだよね」という問題意識が原点にあります。

このあたり、習慣化全般に共通するところでもあります。

2. プロセス思考
ふたつめの特徴は、プロセス思考です。ダイエットにはいくつものフェーズがあり、フェーズごとに課題はちがうし、フェーズごとにやるべきことは違う。この認識が、レコーディング・ダイエットの大きなポイントです。

また、「体重が順調に変化するときもあれば停滞するときもある、でも、表面上停滞しているからといってダイエットが進行していないわけではない」という大きな視点も、レコーディング・ダイエットはもたらしてくれます。
「レコーディング・ダイエット」は、次のような段階を追って進める。
助走
離陸
上昇
巡航
再加速
軌道到達
月面着陸
月面リゾートでの生活
分りやすいように、飛行機を例にとった言い方にした。飛行機というのはおわかりの通り、巨大でなおかつ重たい乗り物だ。それが空を飛ぶ。浮かび上がるまではには、実はいくつかの段階をふまえている
ダイエットは、すべての値が均等に進むのではなく、また同じペースで減っていくのでもない(中略)
ダイエットは、すべての指標がシンクロして減少するのではない。むしろ、時間差をもって、順番に数値が減少していくのだ。(中略)
体重がなかなか減らないから、停滞期だとがっかりするのは早い。目に見えなくても、身体のなかでは次の段階に進むための準備がすすんでいるのだ。
人間の身体の変化は、一直線で進むものではないのだ。
これは、あらゆる成功への道のりについても言えることです。

3. 算数と栄養学
3つめのポイントが、算数と栄養学。つまり、科学的で客観的なダイエットの捉え方です。ダイエットのキホンは、脂肪のインプット、在庫、アウトプットをきちんと把握することです。つまり、摂取カロリーを計算して、基礎代謝も見積もって、目標状態と現状とのギャップを足し算、引き算の問題として埋めていく作業です。

このあたりのところも、きちんとモレなく押さえられています。
基礎代謝とは何か?
18~29歳の男性1550カロリー、女性1210カロリー
30~49歳の男性1500カロリー、女性1170カロリー
50~69歳の男性1350カロリー、女性1110カロリー

さらに、急激なダイエットが失敗する理由として人間の制御機能「ホメオスタシス」にも触れられています。このあたりもヌカリありません笑。
前にもいったが、1日の摂取カロリーを基礎代謝より低くしないこと。早く痩せたいからといって、1日1000カロリーといった無理をすると、必ず反動がくる。
(中略)人間の身体は、基礎代謝も満たされない状態が続くと、飢餓状態と勘違いして、頭は全身に必死でカロリーを取るよう命令する。そうなると、強烈な食欲がわいてくる。これに抵抗するのは至難の業だ。次には、強烈な脱力感やめまい、吐き気が起こる。
さらに、身体は摂取したカロリーを少しでも蓄えようとする。つまり、身体に脂肪として蓄積しようと、基礎代謝を落としてしまうのだ。


#3 レコーディング・ダイエットの価値

じゃあ、レコーディング・ダイエットをすると何がいいのか。価値という視点でいうと、大きなのは次の3点です。
  1. ラクにダイエットに成功する
  2. 身体に敏感になる
  3. 他にも応用可能な技術が身につく

1. ラクにダイエットに成功する
ダイエットがラクになる。これがレコーディング・ダイエットの一番の価値です。

ダイエットは短期戦ではありません。健康的な痩せ方(シェイプ)を目指すのなら、ダイエットは必ずや長期戦になります。その長期戦を意志の力だけで乗り切ったり、大事なロジックが抜け落ちた片手落ちな手法で突破したりするよりは、レコーディング・ダイエットを取り入れた方が断然よい結果をもたらすかと思います。

2. 身体に敏感になる
自分の身体が求めるもの、身体に必要なものに敏感になれる、というのが2つめの価値です。

人がダイエットをするとき、当面の目的は「適正体重になる」というところだと思いますが、その上位にあるもっと本質的な目的は「健康であること」や「自分の最大パフォーマンスをいつも発揮できるようなコンディション作り」です。

身体に敏感になることは、それらを達成するための必要条件です。「身体からのシグナルに気づく力」はシェイプがよいということ以上に、一生のかけがえのない宝となります。私は、自炊を始めてから、この意味が少しわかるような気がします。

3. 他にも応用可能な技術が身につく
3つめが、他にも応用可能だということ。上述のように、レコーディング・ダイエットは「記録」を中心とした体系的な考え方で、行動分析学の理論にも沿ったものです。このメソッドは他のさまざまな習慣化に応用することができます。

私たちは、ついつい「意志の力で行動を変えよう」と発想してしまう。
でも、実は効果があるのは「環境を変えることにより、行動を変える」ことだ
意志の力ではなく「環境によって行動を変える」。これなんて、まさに行動分析のABC分析ですね。

実は、自己コントロールができることは、体重管理だけに有効なのではない。お金や仕事、人間関係や自分の将来など、広範囲に応用可能である。
レコーディングはあなたという飛行機に、いつも位置や方角や速度を教えてくれる。悩みや迷い、それらから脱出するための計画やヒント、日々の思いをレコーディングすることこそ、人生を計器飛行することである
私自身が、レコーディングで得た成果もある。
いま現在の私の家は、まるでメイドさんがいるようにいつも掃除が行き届いてきれいな状態である。(中略)
いきなり掃除をしたり、きれい好きになろうと決心しても続かない。かわりに私は、自宅の精密な地図を作った。どこになにがあるのか、整理や掃除を我慢して、ひたすら地図を作った。つまりレコーディングしたわけだ。
すると、ゴミ屋敷に見えた自室にあふれていたモノたちが、実は「それなりの理由」で配置されていたことに気がついた。
この段階で、まだ片付けたいのを我慢した。その地図上だけで、再配置をひたすら考えた。(中略)
結果、部屋は劇的に片付いた。片付くどころか、掃除するのが当たり前になった。

空間やタスクの整理にも、レコーディング、無意識の活用という手法は使える、とのこと。このあたりの部分も取り入れていきたいです。


・・・以上です。示唆に富んだところが非常に多く、すべてを挙げ出すとキリがないくらいなので、このぐらいで。


一言感想

面白かったです。

読んでいる間、感動しっぱなしでした。長い年月をかけて発展してきた行動分析学の考え方と合致しているし、ダイエットを経験した人だからこそわかるジレンマ(インサイト)にもきちんと焦点があてられていて、ひとつひとつ納得しながら読むことができました。

個人的に思うのは、この考え方がブームで終わらず21世紀の定番へと変わってほしいなぁということ。

今は少しマシになったのかなとも思いますが、ものごとがうまく行かない場合に「がんばりが足りない」「意欲が足りない」とすぐに意志の問題だけに帰着させてしまう「意志の問題病」がこの世には蔓延しています。

実は、ちょっとのカガクとちょっとしたツールで、「苦しい努力」が「ハッピーな努力」に変わる場面はたくさんあると思います。レコーディング・ダイエットや行動分析学はそのひとつで、「意志の問題」だけで片づける狭いものの見方を拡げて、もっと大きな視点から世界を捉え直すことを可能にしてくれるものです。

類書の「脳が教える!1つの習慣」もおすすめです。「レコーディング・ダイエット」はダイエットがテーマですが、「脳が教えるたったひとつの習慣」は習慣全般をテーマにしていて、考え方は共通です。


最後に目次も。

目次
序章  レコーディング・ダイエットの世界へようこそ
第1章 助走期 「現実」を知る
第2章 離陸期 カロリー計算なんて怖くない
第3章 上昇期 目標値を決めて、食べ方を工夫しよう
第4章 巡航期 「75日目の反乱」をどう抑え込むか?
第5章 再加速期 胃袋からのサインを聞く
第6章 軌道到達期 ダイエットを意識しない
第7章 月面着陸期 「新たな自分」に生まれ変わる
終章  月面リゾートでの生活
あとがき


おまけ
著者の岡田斗司夫さんの公式サイトはこちら。
岡田斗司夫公式ウェブサイト
レコーディング・ダイエット2.0のススメ(更新停止中)
レコーディング・ダイエット以外の幅広い活動のようすも見ることができます。



ちなみにこちらはレコーディング・ダイエットブームの発端となった一冊です。

2011/11/25

戦略「脳」を鍛える BCG流戦略発想の技術 / 御立尚資


戦略「脳」を鍛える」を読みました。

「ボスコン」の愛称(?)で知られる世界的に有名な経営コンサルティング会社「ボストン・コンサルティング・グループ」。その日本代表を務める御立尚資さんが書かれた「戦略思考」本がこの「戦略「脳」を鍛える」です。2003年に出版されました。

この本は、「戦略論がわかる」と「実際に効果的な戦略が立てられる」との間に横たわる、ものすごーーーく大きなギャップを埋めるために読む本。いわば、戦略の「わかる」を「できる」に変えるためのヒント本です。

目次
はじめに
第1章 インサイトが戦略に命を吹き込む
第2章 思考の「スピード」を上げる
第3章 三種類のレンズで発想力を身につける
第4章 インサイトを生み出す「頭の使い方」を体験する
第5章 チーム力でインサイトを生み出す
おわりに

本書のエッセンスを、著者が使っているのとはまた別のキーワードを使ってまとめてみました。以下、6点です。

#1 戦略論を学んだだけでは、いい戦略は作れない。

この本のおおもととなった問題意識は、「戦略論を学んでも、いい戦略が立てられるようにはならない」というもの。これは戦略論を学んでもムダだということではありません。「戦略論を学ぶことは大事だけど、それだけではダメ。戦略論プラス、ほかの何かが必要だ」ということです。
戦略論を学ぶのは非常に大事なことだが、これらの知識だけでは、ユニークで勝てる戦略を構築できるようにはならない。戦略論の知識があることと、勝てる戦略を構築できることの間には大きな隔たりがある

#2 「いい戦略が作れる」と「戦略論がわかる」の間のギャップを埋めるのが「インサイト」。

いい戦略を立てるために必要な戦略論以外の何か。それを本書では、「インサイト」と呼んでいます。ボストン・コンサルティング・グループのなかでも通称インサイトで通っているそうです。
このギャップを埋めるものは、戦略論という定石を知ったうえで、新たな戦い方をつくり上げるプラスアルファの能力である。
ギャップを埋めるプラスアルファの能力を、BCGのコンサルタントは「インサイト」と呼ぶ

#3 インサイトとは、リアルな場での戦略を構築するための「頭の使い方」。

インサイトとは、要は「頭の使い方」。
「インサイト」とは、「勝てる戦略の構築に必要な“頭の使い方”、ならびにその結果として得られる“ユニークな視座”」のことである。

#4 インサイトの要素は、1)フレームワーク、2)視点、3)グラフ思考、4)仮説PDCA。

インサイトのモトになるのが、フレームワーク、視点、グラフ思考、仮説PDCAといった要素です。本書では別の表現を使って説明していますが、私なりにここを噛み砕いてみます。

1)フレームワーク
ビジネスを分析するときに使える考え方の枠組み。社会やビジネスによく見られる現象や要素間の関係をキーワードでまとめてパターン化したものです。

それはちょうど、数学の定理に似ています。
定理の証明のような論理積み上げなしに、短い時間で思考を進めていくことができるのだ。

本書では、コスト系、顧客系、構造系、競争パターン系、組織能力系と、5つの切り口から合計12コのフレームワークが取り上げられています。

■コスト系のコンセプトワード
スケールカーブ 経験曲線 コストビヘイビア

■顧客系のコンセプトワード
セグメンテーション スイッチングコスト、ロイヤリティ、ブランド

■構造系のコンセプトワード
V字カーブ アドバンテージ・マトリクス デコンストラクション

■競争パターン系のコンセプトワード
ファースト・ムーバー・アドバンテージ(先行利益) プリエンティプティブ・アタック(先制攻撃)

■組織能力系のコンセプトワード
タイムベース競争 組織学習、ナレッジマネジメント

2)視点
仮説を構築するとき、検証するときに有効な着眼点。これもフレームワークとよく似ています。

■拡散レンズ
ホワイトスペースを活用する バリューチェーンを広げる 進化論で考える

■フォーカスレンズ
ユーザーになりきる テコを効かせる ツボを押さえる

■ヒネリレンズ
逆バリする 特異点を探す アナロジーで考える

3)グラフ思考
図、その中でも特に数字付きの「グラフ」で考えるというアプローチ

グラフで考えることには、言葉で考えると複雑なことも右脳の力でうまく処理できるようになる、数字付きなので裏付けも強い、といったメリットがあります。
目の前の事象をグラフ化して右脳でビジュアル的にとらえることが有効になってくる。グラフ化すると複雑な事象を単純に把握できるうえ、グラフを操作してシミュレーションすることが可能になり、右脳思考で仮説を立てることができるようになる。

これとよく似た考えとして、ビジュアルシンキング図解思考思考の整理術などがあります。

4)仮説PDCA
フレームワークや視点、グラフ思考を使って組み上げたアイデアも、頭の中で考えてるだけでは本当にうまくいくかはどうかわかりません。

自ら立てた仮説を批判・検証し、もう一度立案し直し、さらによい仮説へとブラッシュアップしていく。そういう泥臭いプロセスも良い戦略作りには欠かせません。

#5 インサイトの力を磨くには、経験の積み重ねが必要不可欠。

よい戦略を立てるには、インサイトが必要。そして、インサイトを形作る要素としては、フレームワークと視点とあれとこれとがあって――というのは、まだスタート地点のお話です。

インサイトの力、すなわち、戦略脳を鍛えるには、経験の積み重ねがどうしても不可欠です。スポーツのように、理解したことを実際に試してみて、身体(頭)に馴染ませていくことで初めて、よい戦略体質が備わってきます。

#6 まとめ 戦略的思考とは、1)戦略の定石 + 2)インサイト。

ということで、戦略を考えるために必要なのは、戦略の定石と、インサイト。この両方が大切です。

・・・以上です。

一言感想

よかった!です。8年前の本ですが、今読んでも古臭さはありませんでした。


おまけ
今回まとめるにあたって著者が使ったのとは別のキーワード「フレームワーク」や「グラフ思考」を使いましたが、元々著者が使っていたキーワードも原文のまま、ここに載せておきます。

公式1 ユニークな戦略 = 定石 + インサイト
公式2 インサイト = スピード + レンズ
公式3 スピード = (パターン認識グラフ発想)×シャドウボクシング
公式4 レンズ = “拡散”レンズ + “フォーカス”レンズ + “ヒネリ”レンズ

著者が代表を務めるボストン・コンサルティング・グループのサイトはこちら。
BCG in Japan

2011/11/06

その数学が戦略を決める / イアン・エアーズ


その数学が戦略を決める」を読みました。

原題は「Super Crunchers」。副題は「Why thinking-by-numbers is the new way to be smart」。言うなれば、「スーパー分析屋:なぜ数字思考がスマートであるための新たな方法なのか?」といった意味合いのタイトルです。日本では4年前、2007年に出ています。

本書のテーマを一言であらわすなら、「IT×統計学」。「ITを駆使した統計学の応用」です。事例を豊富に挙げながら、まるまる一冊使って(400ページも!)、近年熱くなってきた「IT×統計学」の背景とインパクト、リスク、今後の展望などを語ってあります。

本書は事例の数や文章の量なんかもすごいんですが(笑)、特にすごいのはその「視野の広さ」。「IT×統計学でいろいろできるんです」という単純な紹介話ではなく、「IT×統計学は万能の道具で、すばらしいんです」という一方的な礼賛話でもなく。「IT×統計学というものがあってそのインパクトはすごいのだが、諸々の理由ですぐには広まらないだろう。使う上での注意点もある。でも、この大きな流れは止まることがないし、これからの専門家はこう変わっていくように備えておいた方がいいよ。」という、とにかく俯瞰した視点からの意見が展開されます。この書き方ができるのがすごい。

ただ、肝心の数式や実践プロセスがまったく書かれていないため、、、そのあたりを期待する理系読者には少し物足りないかもしれません。。。一般人向けの教養書としての割り切りですかね。

私は問題解決スキルの引き出しを増やす目的で軽ーい気持ちで読んだのですが、、、その重要性に驚かされました。本書を読んだいま「このトレンドは今後確実に世界を呑みこむだろう」と思います。もちろん、本書で述べられているような専門家の抵抗や政治、倫理的な問題はあるでしょうし、怒涛の勢いで広まる、なんてことはないでしょう。しかし、ここで語られる「IT×統計学」が社会全体に大きなインパクトをもたらし、専門家のあり方を変えていくのはまちがいなさそうです。

ジェット機のパイロットは、操縦支援システムの登場によりそのワークスタイルが大きく様変わりしました。それと同じように、21世紀は、「診断」と「意思決定」の専門家のあり方が大きく変わっていくはずです。

と思いっきり前置きが長くなりましたが、、、本題に。本書のエッセンスを以下、8文にまとめてみました。前置きが長い分、なるべくコンパクトに行きます。


#1 絶対計算とは、大量データを用いた統計分析

この本のテーマ「IT×統計学」のことを、本書では「絶対計算」と呼んでいます。

絶対計算とは何だろうか。それは現実世界の意思決定を左右する統計分析だ。

ITの発達によって可能となった、実データを大量に用いた統計分析「絶対計算」。これがさまざまな方面で使われるようになっています。政府や研究機関など一部の組織だけのものではなく、驚くほど広い領域でさまざまな組織が活用できる技術です。

ちなみに、絶対計算は「super crunching」の訳語です。この訳はちょっと誤解を招くような気が。。。


#2 絶対計算の主役は、回帰分析とA/Bテスト

絶対計算のツールとして本書の中でよく出てくるのが、2つのツール――回帰分析A/Bテスト(ランダムテスト)です。どちらも、統計学を学んだ人なら「なんだ、それか」と拍子抜けするような基本ツールかと思います(知らない方も、ちょっと調べてみればすぐわかりますのでぜひ)。簡単にいうとこんな感じ↓

回帰分析
あるパラメータが他のパラメータの変化によってどのように変化するかを数式に表す手法(あるパラメータ:従属変数、他のパラメータ:独立変数)。より詳しくは
回帰分析 - Wikipedia

A/Bテスト
実地でランダムに2つのパターン(AとB)を試して、両者の結果を比較する手法。ランダムにすることによって、(集合として)AとBの条件をほぼ同じにします。本書の中では「無作為抽出法」という名前が使われています。

本書では、回帰分析とABテスト以外にもうひとつ、ニューラルネットワークについてもちょっとだけ触れられています。


#3 絶対計算は、多くの診断・意思決定の場に使える

絶対計算は、非常に幅広い領域で診断、意思決定のサポートツールとして使うことができます。おもしろいのは、一見定量化できないような問題も扱えるという点です。定性的な情報も、うまく定量化・パラメータ化することにより統計分析の対象となります。ただしそこをうまくやるには「設計者」としてのスキルが必要です。


#4 絶対計算は、価格・売上の予測やマッチングなどさまざまな場面で使われる

本書で紹介されている事例にはこんななものがあります。

回帰分析の例
ワインの価格予測、野球チームのスカウト、出会い系サイトのマッチング、医療現場の病気診断、カジノ場の客が退席する時間の予測、ECサイトのリコメンド機能、映画の売上予測。

A/Bテストの例
Googleのウェブサイトオプティマイザー、教育手法の結果による比較。


#5 絶対計算は、人間の専門家よりも良い診断を下す

実際、絶対計算はどのぐらい役に立つのでしょうか? それを判断する材料も本書では提示されています。絶対計算と専門家を比較したところ、ほとんどの領域で「絶対計算>専門家」となったそうです。

(人vs.マシン研究136件に関する「メタ」分析の結果)専門家の予測が統計的な予測より明らかに精度が高いという結果が出たのは、136件のうちたった8件

ただし、ここでの「専門家」というのが、診断や意思決定の専門家にかぎられる点には注意が必要です。人間は診断や意思決定以外にも、仮説立案、設計、アイデア出しなどの創造的な作業を行えるため、絶対計算はあらゆる場面で専門家の地位を脅かすものではありません。

またこれは、「ほら、絶対計算っていいでしょ」という立場からのデータである点にも注意は必要です。


#6 絶対計算は、その威力ほどには浸透していない

絶対計算はその有効性の高さのわりにはさほど浸透していません。使われている領域はまだごくわずかです。原因としては、現場の人間(専門家)の抵抗、倫理的な抵抗、絶対計算を使いこなせる設計者人材の不足、などがあるようです。


#7 絶対計算は間違うこともある

絶対計算は専門家よりすぐれているという結果があるとはいえ、絶対計算は万能ではありません。一番の問題は、それを使う人間が生み出すエラーです。また、「仮説」を立てて「設計」するということは、今のところ人間にしかできない作業です


#8 これからの専門家の生きる道は「ハイブリッド型」

さまざまな場面で、今後、専門家よりも絶対計算の方が高いパフォーマンスを出せるようになっていきます。人間にしかできない作業というのはまだまだ存在しますが、専門家がこれまでと同じ姿のまま今後も生き残っていけるわけではありません

「診断」と「意思決定」の専門家は今後、支援システムに支えられたパイロットのようになるでしょう。ITを駆使しながら、ITが得意なことはITに任せ、人間が得意なことだけに自分は集中する。そんなハイブリッド型の専門家が必要になってくるでしょう。

一方、ITを駆使できない専門家の地位はどんどん下がっていくでしょう。

・・・8点、以上です。統計学の基礎知識に関するお話もありましたが、そこは割愛で。


感想

おもしろかったです。「IT×統計学」という切り口から、世界でいまどういうことが起こりつつあるのか、概観することができました。

著者が本書の中で
われわれはいま、馬と蒸気機関の競争のような歴史的瞬間にいる
という比喩を使っていますが、まさにそのとおりだなと感じます。主要交通機関が馬から蒸気機関に切り変わったのと同じような、人からITへの大規模なシフトがいままさに起ころうとしています。

おもしろいのは、これが診断や意思決定という(一見)高度な処理領域で起こっていることです。たとえば、医者や弁護士といった職業はいまは「先生」と呼ばれる社会的地位の高い職業ですが、その業務の中で大きな位置を占めるであろう「診断」や「意思決定」といった作業は実はアルゴリズム的には単純な(もちろん、単純=簡単ではありません)、どちらかというと人間よりもITの方が得意とする領域です。そこをITが担うようになったとき、「先生」という言葉はどういう人たちに向けられる言葉になるのかな、というようなことも、この本を読みながら考えました。

変化が求められるのは、医者や弁護士にかぎりません。ITは今後ますます人間の役に立ち、人間の役割を肩代わりしていきます。そのなかで、人間の本質的な役割はどこにあるのか? 人間にのみできる仕事は何なのか? そういったことを考えるいいきっかけをくれた本でした。

未来のことを考えると、ワクワクする一方で、ちょっぴり不安にもなります。

最後に目次も載せておきます。

目次
序章  絶対計算者たちの台頭
第1章 あなたに代わって考えてくれるのは?
第2章 コイン投げで独自データを作ろう
第3章 確率に頼る政府
第4章 医師は「根拠に基づく医療」にどう対応すべきか
第5章 専門家vs.絶対計算
第6章 なぜいま絶対計算の波が起こっているのか?
第7章 それってこわくない?
第8章 直観と専門性の未来
補章  革命は続く


おまけ
著者のサイトはこちら
SUPER CRUNCHERS

2011/10/24

なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか? / 枝廣淳子 小田理一郎


なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?」を読みました。

この本は、一冊まるごと「システム思考」と呼ばれる問題解決手法を解説した一冊です。

システム思考関連の本を一冊読みたくて、この本を手に取りました。その「一冊」の条件は
  • システム思考の本質を
  • なるべくわかりやすくシンプルに説明した
  • とにかくわかりやすい一冊
  • そして、ある程度評判もよいもの
だったのですが、結果、この本で良かったと思います。当初の目的「システム思考をおおづかみに理解する」は十分に果たしてくれました。

以下、本書のエッセンスを凝縮し、8文にまとめてみました。


#1 システム思考とは、問題を構造的につかむ問題解決手法

システム思考とは、問題を構造的に捉える、問題解決の手法のひとつです。英語では、Systems Thinking。

問題を解決するときに、問題の理解も浅いままに解決策に飛びついてしまうと、ときに
  • 成果が出ない
  • 短期的に(一見)解決するが、長期的にはさらに問題が深刻化する
  • 思わぬ副作用が出る
といった結果が生じます。このような事態を避けるため、問題をまずは構造的に把握し、一番最適なアプローチポイントにアプローチする。その考え方の枠組みが「システム思考」です。

具体的には次のようなステップを踏む手法になります。
  • 問題をしっかりと明確にしたうえで、
  • 表面化した「現象」だけでなくその背景にある「構造」も把握し、
  • そこからKSFを抽出して、
  • より効果的な打ち手を見つける。

要は、「問題をシステムと捉える」というのがシステム思考の最大の特徴なのですが、じゃあ、「システムと捉える」というのはいったいどういうことなのでしょうか? そのあたりのことを以下で述べていきます。


#2 システム思考の背景にあるキーワード「複雑化」

システム思考の中身を掘り下げる前に。まずはシステム思考の前提に触れてみます。

システム思考の背景には、「ビジネス環境はますます複雑になっている」という時代認識があります。IT革命や経済のグローバル化により、20世紀後半の50年で、世界は大きく複雑化しました。さらに、この複雑化の流れは、今後も止まることがありません。

環境が複雑化するにつれて、ビジネスシーンで直面する「問題」も複雑になってきています。そんな、現代の複雑な問題にアプローチする手法のひとつとして着目されているのが、このシステム思考です。

ちなみに、環境が複雑化していることについて、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏は次のように言っています
現状を把握するということが、不可能に近いくらい難しい。
私は最初この表現を見たとき「大げさだなぁ」と思いましたが、今では「そのとおりだなぁ」(笑)と思います。最優先課題は何なのか、どこに問題の本質があるのか、そして、どこのアプローチをかけるべきなのか。それが本当にわかっている人、特にビジネスパーソンというのは、実は、ごくわずかのように思えます。


#3 システムとは、「作用し合う要素の集まり」

システム思考とは「問題をシステムと捉える」ものだ、と上で述べました。では、ここでいう「システム」とは何なのでしょうか?

ここでの「システム」とは、ITシステムなどの狭義のシステム(人工物)ではなく、「作用し合う要素の集まり」のこと。広義でのシステムを意味します。
システムとは、「複数の要素が情報やモノ、エネルギーなどの流れでつながり、相互に作用し合い、全体として目的や機能を有する集合体」です。

(余談:本書では、この引用文にあるように「全体として目的や機能を有する」というのがシステムの定義に含まれています。しかし、「あらゆるものがシステムだ」という広い見方をするのであれば、「全体としての目的や機能を有する」という部分は必要ないかなと思います。)


#4 システム思考のベースとなる「氷山モデル」

システム思考の一番のベースにあるのが、問題を階層的にとらえる「氷山モデル」です。

「氷山の一角」なんて言葉もありますが、実際、人が「できごと」として認識できるのは世界のごくわずかな部分にすぎません。その背景にあるパターンや関係性は、洞察をすることによって初めて見えてくるものです。この「氷山」という捉え方が、システム思考の大前提となります。

本書で紹介されている「氷山モデル」は4つの階層からなります。
  1. できごと
  2. 時系列パターン
  3. 構造
  4. 意識・無意識の前提
いうなら、表面化したできごと(スナップショット)を時間軸でつなぎあわせることで時系列のパターンが見えてきて、その背景にあるのは因果関係の構造。さらにその下に意識などの前提がある、といったイメージです。

私は、この4階層から「時系列パターン」の部分を外して名前も変えた、次の3層構造の方がわかりやすいです。
  1. 現象
  2. 因果関係
  3. 利得構造

この3層の氷山モデルを図にしてみました。



#5 問題解決のツボ「レバレッジ・ポイント」

問題への対策を決めようとしたときに、アプローチ可能なポイントが複数コ出てくる場合があります。そのときに、数あるポイントのなかでもっとも費用対効果の高いポイントのことを「レバレッジ・ポイント」といいます。

レバレッジ・ポイントは、問題のすぐそばにあるとはかぎりません。一見関係ないように見える遠くのポイントが問題解決の糸口になることもあります。その例としては、「割れ窓理論」として有名なニューヨークの犯罪抑止策なんかがあげられます。

レバレッジ・ポイントは日本語でいうなら「ツボ」のこと。レバレッジ・ポイントが意味する「費用対効果が高い」という面と「必ずしも問題のすぐ近くにはない」といった意味合いが、日本語の「ツボ」という言葉にはこめられています。


#6 最初に使う「時系列変化パターングラフ」

システム思考による問題解決の初期に用いるツールが、「時系列変化パターングラフ」です。英語では、Behavior Over Time (BOT)。


これは、横軸に「時間軸」、縦軸に「KGI」(変えたい対象)をおいた二次元グラフです。このグラフを正しく描くことは、意外とカンタンではありません。正しいグラフを描くには、問題を正しく認識し、目的・目標、時間軸を明確に定めることが必要となります。

時系列パターングラフは他の強力なフレームワークと同様、中学生も使えるぐらいものすごく単純なツールですが、使いこなすのは難しいものです。

時系列パターングラフには、次のようなメリットがあります。
  • 目標を明確にできる
  • 目標達成の時間感覚を持てる
  • モチベーションが上がる
個人で使うときにも有効ですが、特に、チームやグループで使うとき、価値観や利害が異なるメンバーが協調する必要があるときに威力を発揮します。

変化を創り出すためには、そもそも「何をどのように変化させたいのか」、つまり変化のビジョンを明らかにする必要があります
時系列変化パターングラフは、単に理性に働きかけるだけではなく、情緒にも働きかける力をもっているためです。
システム思考を身に付けることで、全体像を見る力、問題構造のツボを見抜く力、(中略)組織内外で問題認識を共有する力を強めることができます。とくに組織にとっては、システム思考は、問題を発見し、関係者で認識を共有することによって、真に効果的な働きかけを作り出す力を与えてくれます。「システム思考は学習する組織の基盤」といわれるゆえんです。


#7 システム思考の核「ループ図」

システム思考の核となるのが、「ループ図」と呼ばれるものです。英語では、causal loop diagram(CLD)。


増減するパラメータをひとつのノードに入れて、パラメータ間の因果関係を矢印として表します。エッジに添えられた「+-」、「正負」といった文字は、因果関係がプラスなのかマイナスなのかを意味します。たとえば、「タマゴの数が増えるとニワトリの数が増える」、つまり、プラスになればプラスになる、という関係は+で表します。逆に、「サメが増えればサカナが減る」(捕食者・被捕食者の関係)という関係は-で表します。使う矢印は一方向のものだけです。双方向矢印は使いません。

これはいわゆる「因果関係図」なのですが、システム思考では
  • ひとつのノードにひとつの「パラメータ」を入れる
  • 結果が原因に影響を及ぼすループ(還流)構造を前提にする
というところがポイントです。これらのポイントを押さえることによって、一般の因果関係図に比べて、よりスムーズに、そしてより共有しやすい形で問題を描写することができます


#8 システム思考の筋力を高めるためには「システム原型」

時系列変化パターングラフと同様、ループ図も原理は非常にシンプルです。しかし、実際に使うとなるとなかなか大変です。描こうと思っても、なかなか手が動きません。。。

その大変なループ図作成作業を助けてくれるのが、「システム原型」と呼ばれるパターン集です。これは、構造としてよくあるループ図をまとめたもので、本書では6つほど紹介されています。

よくあるパターンを知っておくことによって、初めての問題に直面しても、過去の事例からのアナロジーで、ある程度予測を立てて問題を解決することが可能となります。いわゆる、「守破離の守」ですね。

このあたりのライブラリがきちんと整備されているところが、他のフレームワークと比較したときのシステム思考の魅力でもあります。


#9 システム思考の存在を一般に広めた「最強組織の法則」

最後はちょっと余談です。システム思考が一般に広まった「きっかけ」のお話を。

システム思考の研究は1950年頃に始まったそうです。なので、経営や問題解決の領域でいうと比較的歴史の深い領域かなと思うのですが、それが経営の現場で一般に広く知られるようになったのは90年代に入ってからのことのようです。

きっかけは「最強組織の法則」という本。著者はピーター・センゲで、原題は「The Fifth Discipline - The Art & Practice of the Learning Organization(第5の規律:学習する組織の技術と実践)」です。

「最強組織の法則」は要は組織に関する本で、「人がイキイキと働き、成長し、成果も出すようなチームはどうやったら作れるのか?」という疑問を追及した本なのですが、その中で挙げられた「5つの重要なカギ」のひとつに「システム思考」が含まれています。

ちなみに、5つのカギとは
  1. システム思考
  2. 自己マスタリー
  3. メンタル・モデルの克服
  4. 共有ビジョンの構築
  5. チーム学習
の5つです。私はこの最強組織の法則は未読ですが、近々読んでみたいと思います。

・・・以上です。


感想

もともと私は、何かを達成したり、問題を解いてスッキリしたりすることが大好きで、「問題解決」や「戦略」、「発想」の手法を身につけ磨くことを自分のライフワークのひとつと捉えています。その中で、システム思考はこれまでずっとスルーしてきました。

今回本書を読んで、システム思考の基本的な考え方とツールを学ぶことができました。使いこなせるようになるには場数を重ねていくことが必要ですが、これで、systems thinker としての第一歩はこれで踏み出せたのかな、と。よかった。今後磨いていきます。

最後に、目次をあげておきます。

目次
まえがき――小さな力で大きく動かそう!
第1章 システム思考とは何か?――よいパターンを創り出す究極のツール
第2章 システム思考は難しくない!――世の中はシステムだらけです
第3章 最強ツール「時系列変化パターングラフ」で望ましい変化を創り出す
第4章 ループ図を使えば構造が見えてくる!
第5章 強力な助っ人「システム原型」で現実の構造を見破る
第6章 絶妙のツボ「レバレッジ・ポイント」を探せ!――小さな力で大きく変える
第7章 いざ、問題解決へ!――望ましい構造を創りだす
第8章 システム思考の効用と実践手法――こんな場面で役に立つ!
第9章 最強の組織をつくる!――変化の時代に必須のスキル
第10章 システム思考を使いこなすコツ――実践のための七ヶ条 
システム思考をより深く知りたい人のために――システムの特徴

おまけ
システム思考のニュートラルな定義を知りたい場合は、こちら。
Systems thinking - Wikipedia

その他もろもろ。
システム思考 - チェンジ・エージェント
システム思考研究会 - Facebook
システム思考 学習する組織の5つのディスプリン - MIKA KUMAHIRA
Habits of a Systems Thinker - System Thinking in Schools Water Foundation



2011/10/04

世界一やさしい問題解決の授業 / 渡辺健介


世界一やさしい問題解決の授業」を読みました。

この本は、一言でいうと「問題解決技術を子どもたちにも!」な一冊です。

著者はどんな人?
著者は渡辺健介さんという方。イェール大学、マッキンゼー、ハーバードビジネススクールを経て「デルタスタジオ」という会社を立ち上げられた方です(経歴スゴイ)。

目的
問題解決の基本をもう一度おさらいし、技術を高めるために読みました。
(基礎を強化することの大切さを最近身にしみて感じています)

目次
まえがき
1限目 問題解決能力を身につけよう
2限目 問題の原因を見極め、打ち手を考える
3限目 目標を設定し、達成する方法を決める
あとがき
1限目~3限目、という3部構成です。

まず1限目で問題解決の基本プロセスとツールを紹介したあと、2限目でマイナスをゼロにするタイプの問題解決、3限目で「目標達成」というゼロをプラスにするタイプの問題解決が取り上げてあります。


ビジネス書をわかりやすく解説するPersonal MBAにならって、以下、本書のエッセンスを7文にまとめてみました。

#1 問題解決手法とは、問題をうまく解決するための普遍的プロセスとツール群

問題解決の手法とは、「現状の理解」に始まり「実行」に終わる一連のプロセス。プラス、各プロセスで使うツール群のことをさします。

問題解決とは、ひらたくいえば、「現状を正確に理解し」「問題の原因を見極め」「効果的な打ち手まで考え抜き」「実行する」ことです。

#2 問題解決には一定の型がある

問題解決を効果的・効率的に行うためには、解決策やアクションにいきなり飛びついてはいけません。

まずは現状を理解し、そして、問題と原因を突き止め、打ち手を考え、実行する。その基本型に忠実に作業を進めることが、最終的には、より素早くスムーズな問題解決につながります。

そして、原因を特定するときも、打ち手を考えるときも、大切なのは、いきなり答えを出すのではなく「選択肢を洗い出してから取捨選択をする」ということです。この「広げてから絞り込む」というやリ方は、IDEOが提唱するデザイン思考のお話にも出てきます。

It is a series of divergent and convergent steps. During divergence we are creating choices and during convergence we are making choices.
(意訳)
それ(デザイン思考)は拡散と収束からなる一連のステップです。拡散のステップでは選択肢を出し、収束のステップでは選択します。

この「広げてから絞り込む」のときに活躍するのが、後ほど述べる「○○の木」です。

#3 問題解決の型を身につけるといろんな問題に対処しやすくなる

問題解決の型を身につけることで、仕事の問題、生活の問題、古い問題、新しい問題。いろんな問題が解決しやすくなります。

もちろん、問題が必ず解決できるとはかぎりませんが、これを身につけるのとつけないのとでは、アクションの精度が格段に変わってきます。

#4 もっとも便利な型は「○○の木」

問題解決のあらゆる場面で使えるもっとも便利なツールは「木」です。

ものごとを分解するとき、グループを分類するとき、選択肢を出すとき。あらゆるフェーズで木を使うことができます。一般的には「ロジックツリー」「ピラミッドストラクチャ」という言葉が使われることが多いですが、本書では
  • 分解の木
  • はい、いいえの木
  • 仮説の木
と、全部日本語でわかりやすい名前がつけられています。

有名な「マインドマップ」も、構造的にはツリーの一種ですね。

#5 他にもいろんな型

「木」以外にも、問題解決の各フェーズで役に立つ、さまざまなツールが存在します。
  • 課題分析シート
  • 二次元マップ
  • タスクリスト
  • ウォーターフォールチャート
  • プロコンリスト
  • 評価軸×評価リスト

これらを身につけると、身につけた分だけよりスムーズに問題解決を行うことができます。

ただ、これらを全部一気に使えるようにすると大変なので、まずは「木」をきちんと習得して、その後にひとつずつクリアしていくのがよさそうです(私自身も、うまく使えないのがたくさんあります・・・)。

#6 問題解決は自主性の源泉になるからこそ、価値がある

問題解決の手法に価値があるのは、それを身につけると最終、「人生をより自主的に生きられるから」。
「考え抜く技術」、そして「考え抜き、行動する癖」を身につければ、(中略)自ら責任が持てる人生、後悔しない人生を生きることができるようになるのです。
問題解決能力を身につければ、より主体的に生きることができるようになります。多面的に物事を見る力、本質を見極める力、打ち手を具体的な行動に落とし込む力を鍛えることができるからです。

7つの習慣」のひとつめにも挙げられている「主体性をもつ(Be proactive)」のためには、「問題に立ち向かう力」が必要で、そのためには「問題をラクに解く技術」が必要だということでしょう。

#7 問題解決に誤解をしている人はもったいない

世間には、問題解決の手法を身につけるとこんな風になるのではないか、という懸念があります。
  • 頭でっかちになる
  • 創造性をなくす
  • 欧米風の考え方を身につけて日本人らしさを捨てる

しかし、これらは全くの誤解です。

正しい問題解決とは、考えるだけでなく「実行する」というプロセスを含めたものですし、本当に有効な創造性を発揮するためには「現状を理解する」ことが不可欠です。また、問題解決は東西問わず有効な考え方です。

・・・以上です。最後に感想を。


感想
「問題解決の技術」は整理術なんかと同じで、「一見して地味だけど効果が高く応用範囲も広い、超強力なコアスキル」です。

ただ、社会人になればわりと早期に学ぶことができますが、ほとんどの学校では今まだ教えられていません。その存在を知らない子も多いようです。私自身、学部を出て大学院に入るか入らないかぐらいの頃まで問題解決のもの字も知りませんでした。。

人生のあらゆる場面で使えてものすごく便利なので、個人的には「もっと早く知りたかった」の一言に尽きます。ですので、この本のコンセプト「問題解決技術を子どもたちに!」というのに私は大賛成です。

私自身も、問題解決の技術を人に教えられるレベルになるまでバリバリ磨いていきたいと思いました。

こんな方におすすめ

  • 問題解決能力に興味のある子(?)
  • 子どもに問題解決能力を身につけさせてあげたい親御さんや先生
  • 部下や自分以外の誰かに問題解決をわかりやすく教えてあげたい方



2011/09/25

2分以内で仕事は決断しなさい / 吉越浩一郎


2分以内で仕事は決断しなさい」を読みました。

著者は、元トリンプ社長の吉越浩一郎さん。外資系企業に何社かお勤めのあとトリンプの社長に就任し、その後は講演活動、執筆活動をされています。

私のイメージは、「残業ゼロ化!」をメインテーマに、
  • 仕事のスピードを上げる
  • 意思決定を早める
  • 働きやすい職場を作る
  • エンパワメント型のリーダーシップを養う
といったテーマを取り上げながら、講演、執筆をされているようなイメージです。

そのベースには、外資にありがち(?)な合理主義――「どうせ働くなら、ダラダラせず効率よく楽しく働こう」といった価値観があるようです。それだけじゃなく、それとあわせて日本人らしい感覚も持っている、というところが、吉越さんが引っ張りだこのヒケツですかね。余談でした。

この本はエッセイ集仕立てで中にはいろーんなことが書いてありますが、今回は「仕事のスピード」という1点に絞ってエッセンスを取り上げてみたいと思います。

とその前に、まずは目次を。

目次
第1章 スピードのない会社は生き残れない
第2章 会議でスピードは速くなる
第3章 利益を生み出す「ムダ取り仕事術」
第4章 仕事を100倍面白くする方法
第5章 デキる社員は勝手に育つ
第6章 利益を生む組織を作りなさい


スピードが大事

まず第一に。「仕事において、スピードがものすごく大切!」ということを言われています。

仕事のキャパシティは、つまりは「能力 × 効率 × 時間」というかけ算の結果だ、とのこと。能力と効率とを区別しているところが、吉越流ですね。

「スピードを上げる」というのは、ともすると、慌しさが増えて精神的余裕が減ったりミスが増えてしまってかえって非効率になったりするようなイメージがありますが、吉越さんの言うスピードアップはそういうことではないみたいです。スピードアップのためにやるのは、意思決定を早める、ムダな時間をトコトン削減する、といったこと。

昔よりも業績が悪くなったり残業が多くなったりした会社は、「スピードが大事」という認識がメンバーに共有できてるか。まずはそこからチェックしてみてもいいかもしれません


スピードを高めるために必要なコト

次に。じゃあ実際、「スピードを高めるためにはどんなことができるの?」ということになりますが、その具体的なポイントが本書の中で3点ほど挙げられていました。

1 「まず川に飛び込め」の精神
ひとつめは、「まず川に飛び込め」の精神。

即断即決の根底には、「まず川に飛び込め」という考え方があるのです

これは、もし目の前に川があったら、向こう岸までの距離を測ったり、どこにも見当たらない橋を探しにいったり、うろちょろしたりするぐらいなら、川に飛び込んでしまえ、という考え方です。

・・・このあたりのマインドの共有が、もしかしたら一番難しいところかもしれません。

2 ロジカルシンキング
ふたつめが、「ロジカルシンキング」です。

「ロジカルシンキング」という言葉にはいろんな捉え方があるようで、論理学とほぼ同じサイズの狭義の定義で考える人もいれば、問題解決思考や戦略的思考、あるいは、ピラミッドストラクチャや因果関係図など。そのあたりを包含する広義の定義で捉える人もいます。

吉越さんの場合は、ひとつにはこんな捉え方をされています。

同じ情報を与えると、人は同じ判断をする。この法則は、みんなが論理的思考ができるという前提があって初めて成り立ちます。

「情報が適切であれば、適切なアクションをちゃんと導き出せる思考力」ということですかね。

言い換えるなら、「情報のインプットが同じであれば、アウトプットも同じになる自動製造機」といった捉え方でしょうか。いいなぁこれ。使おう。

3 問題を小分けにすること
みっつめは、「問題を小分けにすること」です。

これは何度かこのブログにも書いてる、divide-and-conquer method 、いわゆる分割統治法ですね。吉越さんはこの説明に「エメンタールチーズ」という表現を使っています。

二分で決断するために、問題をエメンタールチーズにしてしまうのです。
(中略)
どんなに大きな問題も、たくさんの穴を開けてしまえば簡単に押しつぶせます

最初から大きな問題として取り組むより、分解して片づけていったほうが、最終的な結論を導くまでの時間も圧倒的に短くなります

大きな問題を小さく小分けしていく、というのは、できてそうで、なかなかできないことです。。


・・・以上です。

他には、「上司」になった人が持つべき姿勢についてのお話や、整理されたデスクと仕事の能率との関係についてのお話などが印象的でした。

もし誰かの下で働くなら、こんな人の下で働いてみたい! と思いました。

おまけ
吉越浩一郎さんの公式サイトはこちら。
吉越事務所


2011/09/05

映画:RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語


RAILWAYS」を観ました。

観たあとかなりのタイムラグがあるのですが、個人的にすごく良かったので取り上げてみたいと思います。

副題は、「49歳で電車の運転士になった男の物語」。物語の内容はもう副題のとおりそのまんまで、まさに49歳で運転士になった人の物語です。

予告編はこちら。


予告編で物語の大筋はわかるようになっているので、そこは割愛します。

感想
おもしろかったです。

主人公の境遇にピンとくる点が多かったので、客観的な視点で観る「感動の物語」というよりは、あくまでも主観的な視点で観る「○年後の未来のシミュレーション」といったイメージで観てしまいました

人生において、自分が大切だと思うものすべてを100%大切にできたらそりゃ言うことなしですが、人生は、ときに「両方大切だけど、どちらかは手放さなくちゃならない」トレードオフの選択を迫ってくることがあります。

  • 家族
  • 友人
  • 仕事
  • 成長
  • 冒険
  • 安定
  • 便利な生活
  • 社会とのつながり
  • お金

このどれもが大切です。でも、「いくら大切に思っていても、大切にしたくても、必ずしも全部を選ぶことはできない」ということはちゃんと知っておくべきだな、と思いました。

本当に選択を迫られたそのときに、後悔のないベストな選択ができるように、常に、価値観と環境をスッキリと整えておきたいなと思いました。

物語として、シミュレーションのために見る教材としても、いいと思います。特に、親のことが気になる方にはオススメです。


おまけ
今年の秋から暮れに、「RAILWAYS」の第2弾が公開予定となっているそうです。

キャッチには「人生の分岐点に立つ、すべての大人たちに贈る感動作!」とあります。あ~、こっちも観てみたいなぁ。

RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ




RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語

2011/08/21

シンプリシティの法則 / ジョン・マエダ 2回目


シンプリシティの法則」を読みました。

著者はコンピュータ科学者でありグラフィックデザイナーでもあるジョン・マエダ氏。現在はRISDの学長も務めている方です。そのマエダ氏がものごとをシンプルにする方法について綴ったエッセイ集がこの「シンプリシティの法則」です。

数年前に買って以降何度も読んでいるのですが、私には理解するのが難しく、今回5回目ぐらいにしてようやくほんのちょっと理解できたような気がします。私には難しい一冊。

整理(シンプリシティ)のコツ

本書で紹介されている整理のコツを私なりに再編集してみました。

整理のコツ(基本編)
整理は大きく2つのステップからなります。
  1. まず第一にモノを減らす(WHAT)
  2. そして次に、残ったモノをルールをもって揃える(HOW)


そして、第一ステップは次の4ステップから構成されます。
  1. 削減(reduce)
  2. 縮小(shrink)
  3. 隠蔽(hide)
  4. 具体化(embody)

第二のステップも同じく、4つのステップからなります。
  1. 分類(sort)
  2. ラベリング(label)
  3. 統合(integrate)
  4. 優先度づけ(prioritize)

整理のコツ(応用編)
上記の2ステップに加えて次の事柄も理解しておくと、さらに高いレベルでの整理を行うことができます。
  • モノや空間の整理と同じように、時間も整理することもできる。時間も整理の対象である
  • 知識を得たり、対象を信頼したり、安心したりすることで、ものごとをシンプルにできるレベルは高まる。
  • ただし、何でも整理すればいいというものでもない。この世には、整理しきれないものや整理すべきでないものも存在する。
  • 整理とはとどのつまり、大事なものを残し、その他のものを捨てていくことである。
  • そして、究極の整理は、「人生の中で一番大切なもの」だけを残すこと
  • 感情は大切。感情を犠牲にしてまで整理をする必要はない
  • 前提として、複雑なものが存在するからこそ、(相対的に)シンプルなものが存在できる。

・・・以上です。

それぞれに具体例を挙げていくとわかりやすいかと思うのですが、ここにそれを書くとものすごく長くなってしまうので、、、今回例は割愛します。

私は上述のとおり本書の内容を構造化しようと試みましたが、もとは「10の法則」という名前の一次元リストです。

ピックアップ

最後に、特に印象に残った言葉をピックアップしてみます。
テクノロジーのおかげで、私たちの生活はますます満たされるようになった。だが不快なものに「満たされる」ようにもなった。
複雑なテクノロジーが私たちの家庭や職場に押し寄せ続けるだろう。したがって、シンプリシティはきっと成長産業になるはずなのだ。
シンプリシティとは(中略)企業がみずからに固有のコンプレクシティに立ち向かうための重要な戦略的ツールとなっているのだ。
フィリップスは、全製品ラインだけでなくビジネスの手法全体を、シンプリシティを軸に再編成しようとしていたのだ。
シンプリシティを実現する最もシンプルな方法は、考え抜かれた削減を通じて手に入る。
重要な少数(バイタルフュー)
感覚は形態にしたがう(feeling follows form)
テクノロジーと人生が複雑になるのは、そうなるがままに任せておくときだけである。
テクノロジーはイネイブラー(力をくれるもの)であると同時に、ディセイブラー(力を奪うもの)ともなりうる。

一言感想

私の場合、シンプリシティという言葉に耳馴染みがなく、そのまま読むとなかなか理解できなかったのですが、それを整理という言葉に置き換えて読むぐっと理解が深まりました。言葉を読み替えることで著者の意図と外れることもあるかと思いますが、こういう読み方もあってもいいのかなと知り、勉強になりました。

未整理のエッセイ集だからこそ読者に考える余白があって、とても「頭を使う」良い一冊だと思います。

また、本書の中でiPodのクリックホイールについての考察がなされています。感応式ディスプレイが普及してクリックホイールは過去のものとなりつつありますが、あれはあれで美しかったし操作感良かったなぁと懐かしく思い出しました。

こんな方におすすめ
・シンプルデザイン、ミニマルデザインを志向するデザイナー
・より効果的なデザインを行いたいデザイナー
・複雑な状況や情報をうまく整理したい方

おまけ
公式サイトはこちらです。
Laws of Simplicity


2011/08/08

話すチカラをつくる本 / 山田ズーニー


話すチカラをつくる本」を読みました。

1時間くらいで読めるとても短い本ですが、その中に、生涯にわたって使えそうなコミュニケーションの大原則がぎゅっと凝縮されて収められています。

著者の山田ズーニーさんは、進研ゼミ小論文編集長を担当した後独立し、「文章力」を中心とした「考える力」「表現する力」を伸ばすことをテーマに活動されている方です。

目次
1章 7つの要件で想いは伝わる!
2章 おわび・お願い、人を説得する技術
3章 共感の方法ーー人を励ます・誤解を解く
4章 信頼を切りひらく! メッセージの伝え方

ポイントをピックアップしてみます。今回は7点です。

伝わるメッセージの7つの要件

ちゃんと相手に伝わるメッセージを作るためには、次の7つの要素をチェックするとよい、とのことです。

  1. 自分のメディア力
  2. 意見
  3. 論拠
  4. 目指す結果
  5. 論点
  6. 相手にとっての意味
  7. 根本思想

「自分のメディア力」というのは、相手にとって自分がどれだけ信頼できる人なのか、ということ。人はメッセージの中身を受け取る前に「それを言ってるのは誰なのか」ということを重視します。だから、メッセージを発する前にまず「自分のメディア力」を確保することが大切です。「メディア力」は「ブランド力」と言い換えてもよいかもしれません。私はこのあたりが、まだうまくできていない気がします。

「意見」「論拠」「論点」「相手にとっての意味」はセットになっており、どういうテーマについて(論点)、どういう主張を(意見)、どういう事実や認識に基づいて(論拠)言っているのか、そして相手にとってそれはどういう意味を持つのか(相手にとっての意味)ということです。

そして、「目指す結果」はそもそもそのメッセージは何のために伝えたいのか、という理由。

「根本思想」はおそらく「メディア力」を支える一要素に位置づけられるかと思います。

考えるための道具

考えるための道具とは「問い」です。成果につながる考えは、まずは有効な問いを立てるところから始まります。このあたりのことをミステリー作家で大学教授の森博嗣さんもおっしゃっていました

考えるときの視点

物事を考えるときには、自分を中心に、空間的、時間的に範囲を拡げていくことで、多角的な視点をもってバランスよく考えることができます。
  • 空間:自分→社会→世界
  • 時間:過去→現在→未来

お詫びの6要素

相手に思いが伝わるお詫びには、次の6つの要素がきちんと盛り込まれています。
  • 相手理解
  • 罪の認識
  • 謝罪
  • 原因究明
  • 今後の対策
  • 償い

依頼の構造

お詫びと同様に、相手に思いが伝わる依頼には、次の5要素が入っています。
  • 自己紹介
  • 相手理解
  • 依頼内容
  • 依頼理由

信頼の第一条件

人が信頼されるために第一に大切なことは「つながり」

過去→現在→未来という、時間の中での、その人の連続性。それと、その人と他の人、その人と社会とのつながりです。

正論が通じない理由

私は、相手のことを思って相手のために言ってるつもりなのにうまく伝わらない、ということがよくあります。その原因のひとつがこの本の中に書かれていました。反省です。。。
正論が通じない理由のひとつは、正論を言うとき、自分の目線は、必ず相手より高くなっているからです。
相手は、正しいことだからこそ傷つき、でも正しいから拒否もできず、かといって、すぐに自分を変えることもできず、「わかっているのにどうして自分は変われないんだ」と苦しむことにもなりかねません。正論は、相手を支配します。
ですから相手は、あなたのことを「自分を傷つける相手だ」と警戒します。
何か正しいことを言うなら、相手との関係性をよく考えてください。言葉は関係性の中で、相手の感情に届きます。

もっと相手と同じ視点で、相手にとって本当に役立つことが言える人間になりたいものです。。。

・・・以上です。

一言感想

書いたり、話したり、読んだり、聞いたり。コミュニケーションを行ううえで大切なことは、この本の中にすべての書かれているように思いました。あとは実践、ですね。

こんな方におすすめ
・コミュニケーション力を高めたい
・もっとうまく人を励ませるようになりたい
・もっとうまく信頼を得られるようになりたい