2012/05/03

木のいのち木のこころ<天・地・人> / 西岡常一 小川三夫

木のいのち 木のこころ」を読みました。今回はカバー絵はなしで。。

この本のテーマはずばり、「宮大工」! 「宮大工」とは、お寺や神社を主に対象として工事・修繕を行う特別な大工のこと。家を建てたりする普通の大工とは、求められる技術も心構えも、ちょっと異なる仕事のようです。

この本には、「最後の宮大工」とも呼ばれた法隆寺大工・西岡常一さん、そしてそのお弟子の小川三夫さんをメインに宮大工(とそのタマゴ)たちへのインタビューの記録が書かれています。

宮大工についてのもう少し詳しい解説は、こちらのページなどに載っています。
宮大工 - 日本文化いろは事典

宮大工の技術が端的にわかるこんな動画もあったので、こちらもよろしければ。


(宮大工のすごさの真髄はこういった手業だけにあるのではありませんが、これだけでもすごいです)

1,300年以上もの歴史を持つ世界最古の木造建造物・法隆寺。その修繕を行ったのがこの本に最初に出てくる西岡さんでした。西岡常一さんについてはつい最近映画も作られたみたいです。
西岡常一とは - 宮大工西岡常一の遺言鬼に訊け

お弟子さん・小川三夫さんについてはWikipediaのページなんかが参考になるかと思います。
小川三夫 - Wikipedia

この本を読むと、日本が世界に誇るべきクラフツメン「宮大工」の「こころ」と技術を少しだけ垣間見ることができます。私はこの本を読むまでは宮大工についてはほぼ無知な状態でしたが、この本を読んで以降は「宮大工やばい!」(もちろんいい意味で)と思うようになりました。おすすめです。

この本を読むと
  • 一流の仕事人たちがどのような心構えで仕事をしているのか
  • 日本にはどれだけ素晴らしい職業があるのか
ということを知ることができます。売上がいくら、利益がいくら、顧客満足度がいくら、といった指標で動く仕事もいいですが(私はそれも嫌いではありません)、宮大工のような「人類の仕事」とも呼べるような仕事も、素敵だなと思います。

私は基本的に、「私たちの身のまわりにあるものはすべてナマものだし、淘汰を経て絶えず変わっていくもの」(一切無常)という世界認識ではいるのですが(仏教ベースです)、それでも、宮大工のような仕事に関しては、「短期的な景気の良し悪しや文化の移り変わりに負けず、いつまでも残り続けてほしい仕事」だと思いました。

以下、テーマ別にグッときたところをピックアップしてみます。宮大工だけに参考になるものではなく、あらゆる仕事人、あらゆる生活者にとって参考となるヒントがたくさん隠されているのではないかなと。

ピックアップ

自分の人生のその先の未来を見据えて働くということ
まずはいくつか引用します。
寿命をまっとうするだけ生かすのが大工の役目ですわ千年の木やったら、少なくとも千年生きるようにせな、木に申し訳がたちませんわ。そのためには木をよくよく知らなならん。使い方を知らななりませんな。
造られたものはその後、何十年も、何百年も、ものによっては千年を越えて建っていますし、残っていきますのやで。
私ら檜を使って塔を造るときは、少なくとも三百年後の姿を思い浮かべて造っていますのや。三百年後には設計図通りの姿になるやろうと思って、考えて隅木を入れてますのや
塔の再建には鉄を使わなあかんという学者にはこう言いましたわ。鉄を使ったらせいぜい三百年しか持たん、木だけで造れば千年は持つ、現に木だけで、ここに法隆寺のように千三百年の塔が建っているやないか、と。

この、「300年」とか「1,000年」といったスケール。。常に300年、1,000年という時間軸で仕事をしてるわけではないのかもしれませんが、私はまずこの視野の大きさに圧倒されました。。私が日々の仕事中に意識するのは、、せいぜい10年くらいかなぁ。。。

10年、20年ではなく、自分の人生のさらにその先を見据えて今日の仕事に取り組む。そういう姿勢の上にこそ生まれる仕事というのがあるのかもしれません。

昔読んだ『ビジョナリー・カンパニー』には「ウン十年の長きにわたり優れた業績を上げ続けている企業のヒケツは何か?」といったお話が書かれていましたが、それとは一回り違う時間軸をもって仕事をする仕事のあり方が日本にはありました。ビジョナリーカンパニーの前にこちら読むべきですね。灯台下暗し、です。。

また、「木だけで造れば1,000年もつ」というアイデアにも驚きました。私はどうも、昔の技術よりも最新の技術、木よりも鉄、の方がいいのかなと思いがちでしたが、どうもそうともかぎらないようです。そこらにある木でも、人間よりもずっと長く役に立ち続ける。木の偉大さをもっと知らなければいけませんね。。


素材を見きわめて活かしきるということ

素材を適当に使うのではなく、その癖を見きわめて癖を活かすんや、ということについても書かれています。
堂塔建立の用材は木を買わず山を買え
木は生育の方位のままに使え
堂塔の木組みは木の癖で組め
いずれも木の使い方の心構えを説いたものですな。要は自然の教えるままにしなさいと言うているわけです。その自然に対する心構えというのがどうしても大事になりますな。ものを扱うのも技術も、心構えなしには育たんもんですわ
木を生かす。無駄にしない。癖をいいほうに使いさえすれば建物が長持ちし、丈夫になるんです。
いくら檜が強いといいましても、それだけでは建物は持ちませんのや。檜を生かす技術と知恵がなければなりません
時代に生かさせてもらつているんですから、自分のできる精一杯のことをするのが務めですわ

素材を活かすには、その木だけを見ていてはダメ。その生まれたところ、育ったところも見て、その特性に合わせて使わなければダメ、ということでしょうか。

これは、モノも環境も、人でもそうだと思います。一人ひとりがイキイキとする職場を作りたいなら、リーダーシップとかそういうのよりも、本当の意味で人を知るということが大事なような気がします。

そして、自分自身についてもあてはまることかもなと思います。特に「木は生育の方位のまま使え」という考え方は、いいヒントになりそうです。人を矯正するのではなく、癖を知り癖を活かす。自分のことも、一緒に働く仲間のことも活かす。そう思って仕事したいです。


自分に課された役目・使命を考えるということ
私の仕事なんていうのはちっぽけなもんでっせ。この自然の流れのなかで、木を伐って建物に変えるのやから、できるだけ命を永くせな、私の意味がありませんわな。それが仕事ですわ。
時代に生かさせてもらっているんですから、自分のできる精一杯のことをするのが務めですわ。

心の底から「生かされているんだ」と感じること。そしてその感覚を「ありがたいなぁ」だけで終わらせずに仕事に持ち込むこと。私もこの「自分たちは生かされていて、自然を使わせてもらっている。それなら、できるかぎりをしよう」という視点を普段から強く持っていたいです。


使う道具を本当に大切にするということ
仕事を成り立たせるのが道具ですわ。道具なしには腕のよしあしはないんです。だから職人は道具を大事にするんです。自分や家族に飯を食わせるのと同時に、自分がどんな人間かを映し出すのが道具です
道具を見たら腕がわかるかって聞かれますけど、そりゃ、わかりまっせ。一番大事なものをどう扱っているかを見れば、その人の仕事に対する心構えが見えますな

これは本当にそうだなぁと思います。ときどき、日々パソコンに向かって仕事をしているのに「パソコンは苦手だから」といってパソコンの中身をぐちゃぐちゃにしたままの人がいますが、、私はそれは言い訳にならないかなと思います。伝統の道具でもITの最先端の道具でも、道具の扱い方、その整頓の仕方を見れば、その人の仕事ぶりや仕事のレベルがよぅくわかる、気がします。

・・・と言うからには、ちゃんとできるように、私自身はなるべく気をつけています(笑)。


棟梁の役割
百工あれば百念あり、これをひとつに統ぶる。これ匠長の器量なり。百論ひとつに止まる、これ正なり
百人の工人があればそれぞれ考えが違う。百人いたら百人別々の考えがあると思えというんですな。今どき学校でも会社でも、人の上に立つ人たちはこんなふうに生徒や社員を見ていますかな。この百人の心を一つにまとめるのが棟梁の器量というもんや
「工人たちの心組みは匠長が工人らへの思いやり」
これは文のとおりですな。匠長というのは棟梁のことですな。大勢の工人の心を汲んで一つにするためには棟梁に思いやりがなければならんということですな
私らが「大工にしてくれ」といわれて子供さんを預かりましたら、 一緒に飯を食って生活しますな。寝食を一緒にすることで、仕事にも大工の生活にもなじんでくるんです。大工というのは現場に出ているときだけやないんです。生活も大工なんです。学校と違って生活のしかたから全部教えるんです。知識やなく技術とともに人間としてのあり方も教えるんです

棟梁をつとめたり親方になったりするということは、技術だけでもいけない、(一般的な意味での)マネジメントだけでもいけない、リーダーシップだけでもいけない、ということかなと。ここ、人の人生や存在を丸ごと受け止めるようなたくましさ、それこそ「器量」とも呼ぶべきものが必要になるなのかも。

確かに、今どき、生徒や社員を上記のような視点で見ている人は少ない感じがします。。。


・・・以上です。他にもたくさんいいところがあるので、また取り上げたいと思います。


一言感想

読んでいると、自然に涙が出てくる感じになってしまいました。なんといいますかこの、真摯な仕事の捉え方や師弟愛、ひたすらな生き方などなど。仕事にこれほど思いを込めて生きている人がこの世に存在している(しかも世界的に見ればかなりご近所!)というだけでおなかいっぱいというか、「なんだか生きていきてよかったなぁ」と思います(笑)。

私も、疲れたときにはすぐにグダってしまうのですが、、できるかぎり、あらゆる仕事の場面で自分の全身全霊をかけて取り組みたいと思いました。でもとても、西岡さんたちのようにはできないなぁ。。彼らのはほんと、仕事というより、働きざま、生きざまという感じだもんなぁ。。


おまけ
この本を読む前にもう少し宮大工や西岡さんについて知ってみたい場合は、こちらのページなんかがおすすめです。このあたりでも、ほぼ日すごいです。

法隆寺へ行こう! 千三百年前の宮大工棟梁に出会う旅 - ほぼ日刊イトイ新聞
一生を、木と過ごす。 - ほぼ日刊イトイ新聞
市民栄誉賞受賞記念特別対談(小川三夫)
鬼に訊け -宮大工 西岡常一の遺言-
法隆寺 - Wikipedia